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お役立ちコラム

立体物への印刷方法|様々な手法について解説!

私たちの周りは多種多様な印刷物で溢れています。ちょっと周りを見渡せば、紙だけでなく、ペットボトル、アルミ缶、キーボード、フィギュア、家電、自動車など、さまざまな形状や素材に印刷されたものが目に入ります。これら日常に溶け込んだ製品には、どのようにして絵が描かれているのでしょうか?「紙に印刷する」と聞けばピンと来るかもしれませんが、立体物に印刷することは想像がつかないかもしれませんね。これらの印刷や絵付けには、製造に携わる人々の努力とアイデアがたくさん詰まっています。

専門的な内容は非常に深く、ここでは詳細には触れられませんが、立体物の印刷や絵付けを依頼する際に役立つ概要をご紹介します。

立体物に絵をつける方法にはどんなものがある?

課題になるポイント

先ずはご希望の最終イメージに対して、どのような課題をクリヤーする必要があるのかを整理する必要があります。立体に意匠を施す現場では手法を選ぶ際、次のようなポイントがありますのでチェックしておきましょう。

  • 接着力:いくら絵がつけられたとしても、触っただけで取れてしまうようでは製品として成立しません。絵付けする対象物に対し接着力が確保できるかどうかは非常に重要なテーマとなります。どの程度の接着力が必要なのか、あるいはどの程度の接着試験に耐えなければならないのか等、あらかじめ想定しておきましょう。また、素材自身も塗布や接着を受け付けにくいもの(シリコン、オレフィン、フッ素樹脂等)がありますので、絵付けする対象物が何でできているかを把握しておくことも必要です。
  • 絵付けする対象物の耐久性:素材自体が絵付けのプロセスに耐えるかどうかが問題となります。絵付けの方法によっては素材に対し、「圧力」、「熱」、「紫外線」、「水没」等の負荷がかかることがあります。これらの負荷に素材が耐えられない場合、その手法は採用することが出来ません。
  • 絵付けする対象物の形状:それぞれの形状に対し適切な方法が異なります。絵付けをする対象物の形状について次の表のような点をチェックしてみてください。
    • 平面か立体か:平面ならばかなり多くの手法が有効となりますが、立体物である場合、選択肢は大きく減ります。
    • 立体の場合展開可能な形状かどうか:展開可能な形状とは円筒形、円錐形、立方体、直方体など、紙のような伸びのないシートから立体に起こせるような形状(図の左側3点:以下Aタイプと呼びます)と、そうでない形状(図の右側3点:以下Bタイプと呼びます)とでは対処が異なる可能性があります。
    • 遮蔽物があるか:印刷や絵付けの際、絵付け個所へのアプローチに対し障害になるものがあるかどうかによって選択できる手段が違う場合があります。
    • 立体物の表面の状態:擦りガラス状や梨地のような細かい凹凸がある場合も手段の選択に影響を与えます。
  • 立体物に対する絵付けの位置精度:ヒョウ柄のような連続パターンを全体に施す場合と、狙った位置に狙った意匠が無ければならない場合では選択できる手段が違う場合があります。

絵付け方法の種類 ~直接法と転写~

立体物に絵をつける際、以下の手法が候補となります。絵付けする対象物に直接印刷する場合と、一旦紙などの間接メディアに印刷したあと、絵を対象物に移す「転写」があります。シールやラベルなど一般になじみのある方法以外についてご紹介していきます。

  • 直接法(直接印刷):直接法は、印刷を直接対象物に施すため、転写と比較して工程が短く無駄がありませんが、それぞれの方法に特有の制限もありますので順に見ていきましょう。
    • パッド印刷:タンポ印刷やタコ印刷とも呼ばれます。凹版にインクを充填し、シリコンパッドで充填されたインクをピックアップします。インクのついたシリコンパッドを絵付けする対象物に押し付けるとシリコンパッドについていたインクが画像を保ったまま転写されます。幅広い形状に対して絵付けしたい場合に有効な方法ですが、シリコンパッドを押し付けた時のパッドの変形状態が、ショット毎に完全に同じとはならないため、若干位置ズレが生じるリスクがあり、多色刷りがやや苦手です。繊細な絵をつけたい場合には向かないこともあります。また、凹版を使用する関係上、ベタがやや不得意で、印刷の塗膜も薄目なため、強い発色が得られないことがあります。
    • スクリーン印刷(直刷り):スクリーン印刷は版が柔軟で、オフセットやグラビア印刷のような強い印圧(ワークにインクを押し付ける時の圧力)がかからないため、緩やかな曲面でロゴ等のワンポイントであれば上記A、Bタイプどちらの立体でも直接印刷できることがあります。専用の印刷機を使えば、円筒、円錐等外周にも印刷可能です。スクリーン印刷なので様々なタイプのインクが使用でき、塗膜も厚いので製品に求められる耐久性等は確保しやすい利点があります。但し、曲面が急峻であったり、細かい凹凸があるとうまく印刷できないことがあります。
    • インクジェット:産業用のインクジェット印刷機では非接触であるという特性を生かし、少々の立体形状なら上記A、Bタイプどちらの形状でも印刷することが出来る場合があります。インクジェットを使用する場合は、形状のタイプよりも印刷する場所の起伏の高さが問題になりますが、数㎜程度であれば印刷できる場合が多いです。
       ※ヘッドからワークまでの距離が長いと、インクの着弾位置精度が低下し、画像がぼけます。
      他の印刷方法とは異なり、許容できる起伏の高さが低い代わりに、表面の細かい凹凸(すりガラス状や梨地状)は問題になりません。
       ※但しUVインクジェットでない場合は着弾後、液体の状態が長くなるため、毛細管現象によるニジミの問題が出る可能性があります。
      印刷速度が遅いので、大判の印刷にはかなりの時間がかかり、高額になります。
    • マスク塗装:型やマスキングテープ・シールなどで色を塗ってはいけない場所を保護したうえで、エアブラシで塗装する方法です。色毎に、型やマスキングテープ・シールを交換することで、任意の意匠を直接描画できますが、グラデーションはエアブラシの塗り方に依存するため、個体差が出る可能性があります。数量をこなす為には多くの人員が必要になりますので、常にそういった仕事を受け入れている工場を探す必要があります。
  • 転写法:転写といっても意味は多岐にわたりますが、ここでは立体物に絵をつける際に用いられる手法で、一旦専用の紙やフィルムに印刷しておき、その印刷を対象物に移す(転写する)ことを言います。
    • 水圧転写:Cubic Printingやハイドロディップといわれることもあります。ポリビニルアルコール等の水に溶けるシートにグラビア印刷等で印刷したシートを転写フィルムとして用います。この転写フィルムを水に浮かべるとシートが溶け、印刷が水に浮かんだ状態になります。ここに定着液を噴霧し、絵をつけたい対象物を水没させると、水面に沈む過程で水圧によって絵が対象物に張り付きます。ほとんどどのような形状にも絵付け出来ますが、これだけでは接着力が担保できないため、塗装による補強が必須となります。また、水面に浮かんでいる印刷膜に対象物をくぐらせる特性上、一定の位置に同じように絵付けすることはできません。したがって、ヒョウ柄や迷彩柄、ペイズリー柄といった連続パターンを転写するケースが多いです。絵をつける範囲もコントロールが難しいのでマスキングが必要な場合もあります。設備を整える必要がほとんどなく、個人で楽しむこともできますが、量産となると治具や大きな塗装ブースが必要になるためそれなりの規模の工場が必要となります。
    • 昇華転写:専用の紙にインクジェットやオフセットなどによって昇華インクを印刷したシートを転写紙として用います。この転写紙を絵付けしたい対象物に押し付け、熱をかけるとインクが気化(昇華)し、熱で緩んだ対象物表面の分子構造の内部に浸透していきます。昇華インクが気化する温度で対象物の分子構造が緩む必要があるため、対象物表面は樹脂であることが多いです。また、転写紙と対象物の間に空間があると気化した昇華インクが拡散してしまうため絵がぼけてしまいます。そのため、転写時には転写紙と対象物がぴったりくっつくように圧をかける必要があります。通常、転写紙が追従できる形状でなければ転写できないため、対象物の形状は上記Aタイプ形状である必要があります。転写装置はTシャツ等、平面に転写する場合は、平盤の熱プレス機や家庭用のアイロンで代用できたりしますが、立体物の場合は対象物の形状に応じて設計された専用機が多く、代表的な例としてはノベルティ業界におけるマグカップが挙げられます。意匠は、対象物に浸透しているので、耐スクラッチ性等の性能は非常に優れていますが、染料であるためメタリック色や白の表現はできません。従って対象物が白くない場合は、その色が出てしまいます。※対象物が真っ黒の場合は発色しません。
    • 熱転写:グラビア印刷やスクリーン印刷等で離型処理したフィルム(又は紙)に印刷し、最後に接着層を印刷したものを転写フィルム(または転写紙)として用います。こちらも熱と圧力によって転写しますが、昇華転写とは接着方法が異なり、印刷した接着層により印刷被膜が対象物に接着します。下白を入れることにより対象物に色がついていても狙った発色を実現できます。立体物に転写する際は様々な工夫が必要であり、転写フィルム(または転写紙)が追従できない立体面には転写できません。従って上記Aタイプ形状でなければ転写できないことが多いです。様々なプラスチック製品やアパレル製品にも使用されます。
    • ホットスタンプ:転写フィルムにアルミ蒸着し、接着層をグラビア印刷等で塗工したものを転写箔と呼びますが、これも熱転写の一種です。この場合は、(多くの場合)金属製の凸版を作成し、これを加熱しながら転写箔を対象物に押し付けることで、メッキ調やホログラム調の意匠を転写することが出来ます。
    • 水転写:ウォータースライドマークまたは単にスライドマークとも呼ばれます。よく水圧転写と間違えられますが、全くの別物です。転写紙は澱粉糊が塗工された紙で、この上にスクリーン印刷やオフセット印刷で意匠を印刷します。印刷の構成はさまざまに組み合わせることで違った機能性を持たせることが出来ます。完成した転写紙は水に浸すと裏面から水が浸透し、転写紙と印刷層の間の澱粉糊を溶かします。転写紙から遊離してきた印刷被膜を絵付けする対象物に乗せ、乾燥します。印刷の構成や扱うものによって異なりますが、加熱したり、塗装することで接着強度を持たせます。柔軟性のあるインクで転写紙を印刷することにより、フィルムや紙が追従困難な形状にも転写することが出来ますが、擦りガラス状・梨地状の面には対応しにくいことがあります。陶器の加飾や他の工法では加飾困難な形状で且つ位置精度が求められる場合に用いられます。プラモデルに使うデカール(水転写マーク)もこのグループに属します。
  • その他:上記以外の方法として、インサート成型、インモールド成型をご紹介します。これらは、完成した対象物に絵をつけるのではなく、絵付けと同時に対象物を成形する点で直接印刷や転写とは異なります。いずれもA、Bタイプの形状のどちらでも意匠を施すことが出来ますが、緻密な設計と金型、プレス型等の高額なイニシャル費が発生するため、大量生産するか、高額製品に用いるかすることでしか採算が合いません。
    • インサート成型:PETやポリカ等のシートに意匠と熱可塑性の接着層を印刷します。このシートを金型を用いて立体形状にし、プレスで外形を切り抜きます。これを射出成型用の金型に入れてから成型すると、金型内に流れてきたプラスチックの熱によって左記の接着層がプラスチックと融着します。こうして射出成型と同時に意匠が施されたプラスチック成型品が出来ます。
    • インモールド成型:こちらの方法は離型処理した薄いフィルムに意匠と熱可塑性の接着層を印刷し、射出成形時に金型に差し込んで樹脂を流し込みます。この時プラスチックの熱と射出圧力によってフィルムが伸ばされて金型の形状に変形し、意匠がプラスチック成型品の表面に融着します。射出が終わったらフィルムから剥離し、意匠が施されたプラスチック成型品が出来ます。インサート成型と比較すると事前のフィルムを立体形状にするプロセスがないため、イニシャルは少なく済みますが、形状の凹凸が深い場合には対応できないことがあります。

それぞれの方法はどんな時に使用されるの?

ここまでに、一般的にはあまりなじみのない立体物への絵付け方法をご紹介してきました。しかしこれらの方法で絵付けされたものは私たちの身の回りにあふれています。ここからはそれぞれの方法がどういうものに使われているか一部の事例をご紹介します。

直接印刷の事例

  • パッド印刷:面積が少なく色数の少ない印刷に向いています。
    • ○様々な製品の企業ロゴやノベルティーグッズの名入れ
    • 自動車内装のボタンやつまみ
  • スクリーン印刷:パッド印刷と比較すると広い面積の印刷に向いています。フィルムや紙等への印刷も多いですが、ここでは立体物・製品への直接印刷について事例をご紹介します。
    • ○電化製品の外装(複数個所のスイッチ類等の表示をまとめて印刷)
    • ○グラスの外周に絵柄を直接印刷
    • ○Tシャツに直接印刷
  • インクジェット:インクジェットはさまざまな産業の幅広い領域で活躍しています。よく知られている事例としては大型サイン、アパレルの昇華プリントによる加飾生地の生産などがあります。また、オンデマンドの特性を生かし、インラインでロット番号を入れるために用いられることもあります。一方、直接製品に意匠をつけるという観点でみると、大面積や印刷面の凹凸が高さのある場合にはあまり向いていません。点描によって印刷するため、印刷に粒感があり小さい文字にはあまり適していませんが、パッド印刷やスクリーン印刷と違ってフルカラーを一気に印刷できるので多色の印刷が得意です。
    • ○様々な製品の企業ロゴやノベルティーグッズの名入れ(特に多色ものが有効)
  • マスク塗装:印刷のイメージとは異なりますが、意匠を立体物に施すという点でご紹介しましたが、この方法はマスキングの工夫によってさまざまなシチュエーションで用いられます。よく見られる例としては次のようなものがあります。
    • ○車両関係の色分け塗装やロゴ入れ
    • ○フィギュアの色分け塗装

転写法の事例

  • 水圧転写:塗装を前提とする工法であり、絵柄も位置を狙うのが難しい等制約はありますが、ほとんどの形状に対応できることを生かし、様々な製品に用いられます。
    • ○スマホケースへの全面絵付け
    • ○車載部品の木目柄やカーボン柄
    • ○その他さまざまなプラスチック部品
  • 昇華転写:均等に圧をかけながら加熱しなければならないことから、立体物に加工する場合は転写工程に工夫が必要になります。また転写紙に伸びがなく、Aタイプの立体にしか追従できないので対応できる形状も限られてきます。白、メタリック色の表現ができないので注意が必要です。絵付けする対象物はいずれにしても白であることが望ましいです。
    • ○Tシャツやアパレル生地の加飾
    • ○のぼり
    • ○マグカップ(昇華対応生地のみ)
  • 熱転写:昇華転写と同様に転写フィルムが伸びないのでAタイプの形状にしか転写できません。しかし、接着層を有しており多様な樹脂表面に強く接着出来ます。顔料系インクによる印刷ですので白、メタリック色の表現ができ、生地色は問いません。また、伸びのあるインクを用いることで、アパレルのワンポイントやゼッケンに用いられることもあります。
    • ○ラケット、ゴルフのシャフト等のワンポイント
    • ○ユニフォーム、キャップのワンポイント
    • ○様々なプラスチック製品、雑貨等
  • ホットスタンプ:熱転写と同様の仕組みですが、加熱した凸版でベタの転写フィルム(転写箔とよぶ)をおしつけて絵柄とするため、パターンは使用した凸版に依存し、色調は使用した転写箔に依存します。凸版の形状を立体的にし、対象物の形状に合わせることで立体物にも転写ができます。最大の特長はメッキ調や、ホログラム調のロゴ等が手軽に転写できることです。
    • ○ノベルティーのロゴ入れ
    • ○ルアー
    • ○自動車内装、アーケード・遊戯機器等のプラスチック部品のメッキ/ホログラム調の加飾
  • 水転写:伸びのあるインクを使うことでAタイプ、Bタイプどちらの形状でも貼れ、位置もある程度一定の位置に絵付けでき、大面積でも小面積でもワンポイントでも全面でも工夫次第で対応できるという特徴を持っています。陶器の絵付けでも無機顔料を用いて転写紙を印刷し、貼って約800℃で焼成することで製品表面に強固に融着させることが出来ます。低温で接着させる特殊なインクを用いて転写紙を印刷すると、金属表面にも使用できます。塗装を組み合わせることで高い温度をかけられないものにも使われます。また、プラモデルの世界では最も一般的なマーキングとして水転写が使われています。
    • ○陶器・ガラス製品
    • ○ステンレスマグ・タンブラー等の金属製品
    • ○ラケット・ゴルフのヘッド
    • ○ヘルメット(全体に絵柄を入れる場合等)
    • ○プラモデル

その他の事例

  • インサート成型、インモールド成型:これらの工法は射出成型と同時に行い、かつ成型品の片面にしか絵をつけられないため、プラスチック部品で大量につくられるもので、組付けて製品の一部として用いるものである場合がほとんどです。
    • ○作部の外装
    • ○遊戯機器の加飾部品
    • ○自動車の内装部品

まとめ

いかがだったでしょうか。私たちの身の回りにある様々な立体物に加飾が施されていますが、これらの加飾を実際に行うには、それぞれの材質、形状、意匠のデザイン、色調、さらには作成する数量等あらゆる条件を考慮し適切な工法を選択する必要があります。ここでご紹介した工法は一部に過ぎず、各メーカーさん、加工業者さんの開発した独自の工法によって上で記載したような制約を克服されている場合もあります。ご紹介した内容はあくまで参考としていただき、詳しくは各業者さんにお問い合わせいただくことが必須となりますが、これらの内容を踏まえて問い合わせることで、余計な寄り道をせずに最適解を見つけやすくなるはずです。また、ここでご紹介したキーワードで検索していただき、加工風景や動画を見ていただけると一層理解が深まると思いますので是非お試しください。